2018.07.24
2022.02.18

【KPI】離職をマネジメントする(離職率と離職コスト)

コールセンター運営における重要なKPIについて、応答率稼働率AHTの3つが最重要KPIと、前回までのブログで触れました。ただ、これはあくまでの顧客視点で見た場合です。

内部の企業視点で見た場合、最も重要なKPIはオペレーターの「離職率」です。
というのも、離職のもたらす悪影響は軽視できません。

簡単に説明すると、
「離職 = 知識とスキルの高いベテランから、知識とスキルの低い新人に置き換わる。」
これがどのようなリスクをはらんでいるのか整理しましょう。

離職によって起こりうる運営リスク

①生産性が落ちる

新人はベテランより、時間あたり処理件数が少ない → 電話がつながりにくくなる → お客様からクレームを受けやすくなる → 管理者の負担が増す。

②精度が落ちる

新人は業務に不慣れ。知識やスキルも不安定 → ミスが増える → ミスのリカバリー作業が増える → 管理者の負担が増す。

③クレーム対応が増える

新人の未熟な応対により、クレームが発生しやすくなる → クレームの二次対応が増える。新人のメンタルケアも必要 → 管理者の負担が増す。

④採用コストが増える

募集費用、紹介費用の発生 → 運用コスト増 → 会社からコストダウンの要求 →人員削減、生産性改善など何らかの追加作業が発生 → 管理者の負担が増す。

⑤新人を教育しなければならない

研修準備や研修に一定時間(期間)が必要 → 管理者の負担が増す。

⑥業務に慣れるまでは、新人をフォローし続けなければならない

デビュー後もしばらく、モニタリングや指導が必要 → 管理者の負担が増す。

離職の問題は、管理者の負担を著しく増やすことです。
管理者の負担が増すと、本来すべきことがどんどん出来なくなり、さらにパフォーマンスが低下する悪循環に陥ります。

離職率管理の目安

離職の発生傾向は、10人程度のコールセンターでは少ないものの、20人を超えたあたりから離職者が増え始め、規模が大きくなるにつれ離職者も増えます。
またコールセンターを立ち上げると、最初の1年目はだいたい離職率50%くらいになるでしょう。

それでは離職率の目安となる基準はどのくらいでしょうか。
従業員が非正規社員(アルバイト、パート、派遣)中心のコールセンターでは、年間36%を目安として、それ以上であれば離職者が多すぎると判断できます。
派遣社員比率や正社員比率が高いほど、離職率は激減します。

離職防止策

離職防止策として鍵になるのは、”真の離職理由”を把握することです。
それさえ分かれば、正しい是正策を立てられ、同じ理由で辞めていく人を減らすことができます。

では、離職する本当の理由は何なのでしょうか。
辞める人が本当の理由を述べるケースは稀で、たいていは「一身上の都合」や「家族」を理由にしたものが多いですね。

その”真の離職理由”を本人から聞き出すためには、離職する人と親しい人から聞き出してもらう方法や、離職後に本人とコンタクトを取り、”今だから話せる本音”を聞き出す方法があります。

一般的に離職理由として多いものは、以下の4つがあげられます。

①採用のミスマッチ
②人間関係
③待遇面での不満(現状のままでいることの不安)
④(本当に)家族や自己都合

人数の多いコールセンターでは、特に「①採用のミスマッチ」のケースが多いようです。
採用予定人数が集まらないため、スキル不足と分かっていても、やむを得ず取ってしまった人材がそれで、そういう人は結果的に辞めていくことが多いのではないでしょうか。

採用のミスマッチを減らす試みとして成功した例では、採用面接時にSVを同席させると失敗率が低下しました。
現場のことを一番知っている人間であれば、面接での話や様子で、この人が続くか無理か分かるようです。

また採用時のチェックの仕方で離職を減らせます。
それは先天的資質(性格など)を、後天的資質(知識やスキル)や経歴(実績)に優先してチェックすることです。
というのも、後天的資質は教育や時間が解決しますが、性格など先天的資質は教育や時間で解決するのは困難だからです。

■チェックポイント

このほか、求人サイトや企業ページに掲載したコピーにも、ミスマッチを生む原因になっていないかチェックが必要です。

離職コスト

さらに別の対策として、離職コストを管理者に理解させることも有効です。
離職コストとは、離職によって無駄になってしまった人材採用および育成コストのことです。

大人数のコールセンターや離職率の高いセンターでは、離職によって無駄になったコストが膨大になります。
にもかかわらず、そのことを理解している人は多くありません。
それは直接見えるコストではないからです。
その見えないコストを明らかにすることで、周囲の理解と協力を得るきっかけにすることができます。

かつてある金融業界の企業で調査したことがありました。
そこは200人が働くコールセンターで、全て派遣社員を採用していました。
銀行取引業務のため、業務難易度が最も高く、年間の離職率も63.7%と高い水準です。
年間の就職者数が177人で、その年の離職者数は129人。
このセンターで試算したところ、年間にかかった新人育成コストは1億500万円。
そのうち離職で無駄になった新人育成コスト(離職コスト)は2,500万円にも上りました。

このことをセンター長以下管理者に伝えると、全員が驚愕。
直ちに離職防止策を真剣に検討しました。

金額にすると、さすがにインパクトありますよね。
このように、離職率だとピンと来なくても、金額に換算するとリアリティが増し、何とかしようという気になります。

このコストの内訳として、以下のものを含めて考えます。

【前提条件】
・従業員を新人と一人前(既存、ベテラン)の二種類に定義。
・一人前と判断できる時期を、デビューから1年とする。
※一人前:人に頼らず、おおむね一人で業務を遂行でき、AHTなど会社の目標水準で対応できる。
・業務デビューしても、一人前になるまでに離職した場合は、教育が無駄になったと定義。

【必要な情報】
(a)一人あたり採用コスト(求人募集費、採用までかかった人件費。)
(b)新人一人あたり平均研修時間(1日あたり)
(c)新人一人あたり平均研修期間
(d)支払い単価(研修時給を設定している場合は、通常の時給と分けて計算。)
(e)デビュー後、一人前になるまでに実施する一人あたり平均フォロー教育時間(1か月)
(f) 教育担当者の1時間あたりコスト
(g)教育担当者の研修実施時間(1年間あたり)
(h)採用人数(1年間あたり)
(i)新人の離職人数(1年間あたり)

(a + (b × c × d) + (e × 12か月 × d) + (f × g ÷ h)) = 新人一人あたり育成にかかるコスト(j)

j × h = 新人育成コスト(1年間あたり)

j × i = 離職コスト(1年間あたり)

離職コストは教育担当部門、SVなど管理者で共有しましょう。コスト削減の観点で離職防止策を検討するほうが、単に離職率のデータをもとに検討するよりも、より具体的な対策を立てやすくなります。

離職率改善の基本は、離職予備軍の早期発見・即行動

新人の離職防止策としては、新人の期間を細分化して検証することで、課題を見つけやすくなります。

① 最初の研修期間中の離職者。
② デビューから3か月までの離職者。
③ デビューから6~12か月までの離職者。

これまでの調査例では、上記①~③で離職理由が異なることがよくありました。
この中で一番注意すべきは、「①最初の研修期間中の離職者」です。
よく見られる課題は大きく三つ、「採用のミスマッチ」と「新人の不安、自信喪失」、「不適格な教育担当者の資質・スキル」です。

採用のミスマッチであれば、採用基準や採用方法、求人情報誌・サイトに掲載されているコピーや業務内容を一度見直してみましょう。
離職・転職理由に、「自分が思っていたのと違った」とあれば、採用時の説明を見直しましょう。
「研修についていけなくなった」とあれば、採用基準や選定プロセスに問題が無かったか検証してみましょう。

新人の不安や自信喪失であれば、あきらかにメンタルフォローが不足しているので、研修期間中は常に声をかけ、研修後も必要に応じて補習するなど丁寧にサポートしましょう。
また研修内容が分かりにくくないか、詰め込み主義になっていないか、受講生の理解度を高められるような配慮や演出はあるかチェックしましょう。

教育担当者の資質やスキルの適格性については、研修内容を観察する必要があります。何も知らない新人の立場で考え行動できているでしょうか、献身的に振る舞えているでしょうか。「こんなこともわからないの?」と言うような人は、ちょっと?ですね。

経験値の高いベテランの離職については、同じ仕事内容を続けることによる飽きや家庭の事情など、やむを得ない理由が増えてきます。
処遇面や未来に希望が持てなくなるというケースも散見されます。
優秀な人材を引き留めるための、遇面での優遇やアルバイトから契約社員・正社員登用のキャリアパスなど、長く働ける環境づくりも欠かせません。

これらすべての対策に共通するのは、常に従業員を観察し、表情が良くないなどストレスの兆候を少しでも感じたら、早めに声をかけて話を聞き、解決できることであれば手を打つことが基本になっていることです。

本人から「辞めます」と言われたときは、既に時遅しです。
普段からスタッフとのコミュニケーションを欠かさないこと。
部下をよく観察すること。
これも上司・管理者の大事な仕事です。

 

*【ゼロから学ぶコールセンターのKPI(管理指標)】
「つながりやすさ」を考える。(応答率)
稼働率はコールセンター運営の健康状態を知るバロメーター
生産性管理の基本 AHTとは
離職をマネジメントする(離職率と離職コスト)
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