2019.12.20
2022.02.18

「KPI何からやればいいですか?」その2 ミス率

前回は「応答率」について振り返ってみました。
今回はふたつ目の「ミス率」について考えてみましょう。

ミスの原因から考える

人間がする以上、必ずミスは起こります
理想はミス率0%ですが、これは不可能であり、この目標をもとに対策を取ろうとすると挫折します。
適切な目標としては「ミスの極小化」です。
そのためにミスが起こりうる原因を洗い出し、それぞれに実現可能な対策を取ります。
起こりうるミスの原因は以下が考えられます。

人的要因

・採用のミスマッチ。
・人材の知識とスキル不足。
・人材の間違った理解と、その放置。

業務要因

・仕組みの複雑さ。
・仕組みの曖昧さ、不完全性。
・仕組みの属人化。
・例外処理の多さ。

人材育成要因

・人材の教育不足。
・教育時におけるチェックとフォロー不足。
・マニュアルの整備不足。
・教育担当者の教育スキルの不適格性。

体制要因

・業務繁忙。
・人材不足による教育不足の人材の現場投入。
・管理者繁忙によるチェック、フォロー不足。

少なくとも以上のリスクに対して事前に手を打つ必要がありますが、ミス削減に特に重要なのはデビュー前の事前教育と、デビュー後のチェック&フォローアップです。

今回は、その中でも多くのコールセンターが“やらかしてしまう”問題、「管理者の資質問題」について考えてみましょう。

不適格な管理者による悲劇

とある金融系のコールセンターで実際に起こった事件です。
新規採用した30名を教育するために、10名単位で3チーム作り、それぞれに教育担当者が配属されました。
教育期間はデビューまでの初期研修で2カ月かかり、デビュー後も追加の教育が必要という難易度の高い業務です。
初期研修中の離職率は2~3割程度で、離職理由の多くは研修についていけなくなったというものでした。

3チームの研修は順調に行われていましたが、2ヶ月目に入ったところで、1チームの受講生10名が全員辞めてしまうという事件が起こりました。
研修カリキュラムは確立しており、3チームとも同じ内容を実施していました。

偶然にしては不自然なため、辞めた人たちに率直に話を聞いたところ、ある共通したキーワードが浮上しました。

“教育担当者が怖い”、“教育担当者が嫌い”

この教育担当者の性格がきつく、特に「なんでこんなことも分からないの?」と詰問調でくるのがストレスになっていたようです。
他の2チームは最小限の離脱者でデビューまでこぎつけたこと、同じ研修カリキュラムであったことから、この企業では教育担当者は知識やスキルのほかに、資質を考慮した人選に切り替えました。

この教育担当者の「なんでこんなことも分からないの?」という発言から予想できることは、知識やスキルの無い人に対し、知識やスキルのある自分の物差しで接してしまったことで、“ストレス・恐怖感”を新人に与えてしまったということです。
ただし、このようなケースは他のコールセンターでもよく見かける、“あるある”な事象です。
実際に、新人の離職理由を分析すると、教育担当者が原因というものが上位に来るケースが多いです。

教育担当者とスーパーバイザーに要求される資質は異なる

皆さんのコールセンターでは教育担当者はどのように決めていますか

知識やスキル、経験が一番ある人、すなわちスーパーバイザーが兼務していませんか?

また、大規模センターになると専属の教育担当者が配属されることが多いのですが、その選出にあたり、教育担当者の要件を作成し、その要件を満たす人材のみを選抜していませんか?

一方、小規模センターになると専属の教育担当者を配置する余裕がないので、やむを得ずスーパーバイザーに任せていませんか?

「研修 = 高い知識とスキルレベルが必要」と一般的に考え、それに該当するスーパーバイザーが担当するというのは、一見正しい考えのように感じます。
確かに一理あります。
教育担当者にもスーパーバイザーにも、一定レベル以上の知識とスキルは必要ですが、これはあくまでも後天的資質(後から身に着けることができる資質)であり、教育においてより重要なのは、先天的資質(持って生まれた資質)のほうで、それは性格や人間性といったものです。

例えば、スーパーバイザーに求められる先天的資質とは、「判断力」、「決断力」、「実行力」、「統率力」が考えられます。
一方で教育担当者になると、「相手の立場に立って考えることができる力」、「オープンマインド」、「表現力」、「忍耐力」、そして「無償の愛情を注ぐことができる力」といったところでしょうか。

人を育てることに苦労している方なら皆、直面する課題ではないでしょうか。

とはいえ、大規模センターでなら人は選べますが、小規模センターになると理解できても実行するのは難しいですね。
しかし、効果的な教育はミス削減の第一歩ですので、先天的資質にフォーカスして教育担当者を選抜してみてください。それが結果的にミスによる無駄な作業の削減にもつながります

それでは、誰を選べばよいのか

これについては、以下のを参考に考えてみてください。

こんな人は教育担当者に任命してはならない

①物言いが上から目線、高圧的な人

傲慢に接してくる人に対して、人は反発心が起こり、心の部分で受け入れたくなくなったり、前向きに考えられなくなったりします。
また新人は緊張し不安を抱えているもので、高圧的に接してくると、頭が真っ白になって理解するどころではなくなってしまいます。
この癖は本人に自覚症状がなく、そう簡単には直りません。残念ながら、この資質の人は最初から対象外にせざるを得ません。

②相手の立場、弱者の立場に立ってものを考えることができない人

「なぜこんなことも分からないの」というようなことを言う人が特徴的で、「なぜ~」という投げかけは相手を追い詰め、萎縮させてしまいます。
また常に話の主語が自分中心のタイプにも、相手の都合や感情を顧みない傾向があります。
教育者にはどこか自己犠牲の精神が必要であり、自分の感情をコントロールできない人は、そもそも教育者として失格です。

③短気な人

教育はすなわち「辛抱」の連続です。忍耐力や寛容さに欠ける人材は、受講生だけでなく、最後は自分自身も耐えられなくなります

④理由をきちんと説明できない人

教育する対象は基本的に“知らない人”です。「なぜ?」が常にまとわりついています。なかには一つひとつ理解できないと意識が次に向かない人もいます。
質問の回答が理解できないと判断したら、別の言葉で言い換える力も求められます。
物事を論理的に説明できず、感覚的な話しかできない人の教えを理解しろというほうが無理な話です。

⑤人にあまり関心を持っていない人

教育者に必要なスキルのひとつに「観察力」があります。
相手が「緊張しているな」、「理解していないようだな」など相手の顔色を読み、先回りして手を打たなければなりません
また、一人ひとりに対する気配りも大切です。
これらは全て人に興味がないとできないことです。

⑥遊び心の少ない人

教育は基本的に退屈です。集中力が切れてしまうとせっかくの教育も無駄になってしまいます。
室温やスペースなど外部要因もありますが、皆をリラックスさせ気分転換させるスキルが求められます。
人の集中力について心理学者ライリー博士の実験では、人間が集中力を維持できる時間は25分が限度という結果が出ています。
気晴らしする手法として、ゲームをしてみたり、甘いものを食べながら進めたり、または体を動かすストレッチを取り入れたりと、そこは教育者の遊び心が試されています。
残念ながら、これは頭の固い人にとっては無理難題でしかありません。

信じて、強く期待すれば、相手はそれに応えてくれる「ピグマリオン効果」

アメリカの心理学者ローゼンソールは、次のような実験を試みました。

まず、小学生に学年の初めに知能テストをしてもらいます。
その後で、新しい担任の先生に「将来伸びる可能性があるのはこの子たちです」と言って、何人かの子供の成績を教えました。
それから一年後に再び知能テストをしたところ、伸びるといわれた子供は知能テストの結果がよかっただけでなく、学力や学習意欲も向上していました。

ローゼンソールが担任の先生にテストの結果を教えた子というのは、5人に1人の割合でランダムに選び出された子供たちでした。
そして、そのときに教えられた成績は実際よりも高い得点に書き換えられていたのでした。

なぜ成績が良いと教えられた子供たちの能力だけがずば抜けて伸びたのでしょうか。
その理由として、成績が優れていると教えられた子供に対する先生の期待がその子の能力を伸ばしたということが考えられています。
ローゼンソールは、「人は常に相手の期待に対してもっとも敏感に反応するからだ」と説明しています。

どのような働きかけが有効か実験で分かったこと

①期待をこめた言葉がけ

機会を見つけ相手を褒め、評価します。
「これは君ならできる」など期待をこめた言葉がけを続けます。

②言葉のやりとり

相手に指示命令するとき、期待している子供がそれを理解できない場合、もう一度説明しなおします。
しかも前と同じように説明するのではなく、相手が分かりやすいように何かヒントを入れたり、説明のしかたを変えたりするなどして工夫します。

以上のような働きかけが、自分は期待されているという実感につながったそうです。
これは日本でも知られている”褒めて伸ばす”にも通ずるものですね。

教育者の資質が相手を成長させ、結果的にミスの削減につながるとするなら、これほど効率的かつ効果的なものはありません