【スーパーバイザー向け】コールセンター運営の成否のカギはSVにあり
最初に質問です。
「コールセンターマネジメントについて最も重要なもの(こと)は何でしょうか?」と聞かれたら、皆さんはどう答えますか。
おそらく多くの方は「人」と答えるのではないでしょうか。
その「人」の中でも重要なのは管理者で、特にスーパーバイザー(以下SV)の質はコールセンター運営の成否のカギを握るといっても過言ではありません。
そのSVは常に人材不足で、昨今はSVの契約社員や正社員への登用など囲い込みが進んだことでさらに流動性が低下し、SVの質と量の両面において多くのコールセンターの主要課題になっています。
今回はそのSVの課題と対策について考えてみましょう。
目次
SVの役割とは何か
まずコールセンターにおける組織体制から管理者を見てみましょう。
- センター長(コールセンター全体の統括責任者。企業では部長職以上が就くことが多い。)
- マネージャー(複数のSVを統括する部門ごとの責任者。正社員が就くことが多い。規模の小さいコールセンターではマネージャーとSVが兼務の場合もある。)
- SV(担当チームの運営管理者。コミュニケーター(以下CM)10~20名につき1名配置が一般的。SVは正社員が担当することもあれば、派遣社員やパートタイマーのCMから昇進することもある。)
- リーダー(以下LD。CM数が多い大規模コールセンターでは、SVの輔佐役として配置される。CM5~10名につき1名配置が一般的。SV候補生として育成を兼ねる。)
それではSVの仕事にはどのようなものがあるのでしょうか。
【一般的なSVの仕事】
- 新人CMのサポート。
- 応対の二次対応(クレーム対応など)
- 特殊対応(難易度が特に高い業務、VIP対応など)
- コール状況や個人パフォーマンスの監視と是正対応。
【企業や業務内容で差があるSVの仕事】
- 付与権限内での決済、判断。
- CMの採用計画立案と募集、面接まで。
- 新人および既存CMやLDの教育。
- シフト作成およびシフト管理。
- 応対モニタリングによるスキルチェックと教育指導。
- パフォーマンスの分析と改善提案作成および実施。
- 評価。
- 面談。
- 人間関係の調整(メンタル面も含む)
- 勤怠管理。
- 報告書作成。
SVはどのコールセンターでも最もハードワークな役職であり、月間労働時間が200時間を超えることも珍しくないため、労働問題もしばしば起こっています。
大規模コールセンターは間接部門が充実しているため、SVの役割は限定的ではあるものの、多くのコールセンターではSVの仕事範囲が広く、したがってSVの能力の差が運営パフォーマンスに大きく影響することになります。
SVに必要な能力
それではSVの任命にあたり、どのような能力が求められるのでしょうか。
- 業務遂行能力
コールセンターはクレームに対処できない、または避けるSVには誰もついていかない実力主義の世界です。電話応対スキルは高いに越したことはないものの、クレームなど難しいお客さまにも積極的に対応し、収める力のほうがより求められます。
また一定水準以上の業務知識も求められます。知識や指示が不適格なSVにCMは誰も相談しに行かなくなり、仕事ができる一部のSVに負担が集中するため、他のSVやCMの不満やストレスにつながります。 - 統率能力(人間性)
ただ個人的な見解としては、業務遂行能力よりも重要なのは人間性ではないかと考えます。性格の悪いSVが仕切るコールセンターは人が定着せず、またえこひいきなど感情や好き嫌いが表に出やすいSVのもとでは仲良しグループなど派閥ができやすく、仕事ができないが人に取り入るのが上手いCMばかりの温床となり、優秀な人材から辞めていく傾向が見られます。
さらに重要なのは柔軟性です。
SV失敗例
とあるコールセンターにいたSVは非常に優秀で、彼しか知らない仕事がいくつもあり、そのSVが一人で業務を切り盛りする頼もしい存在でした。
しかし一方で、そのSVを敵に回すと仕事が回らなくなるので、上司は常に部下であるSVの顔色を窺い、上司の指示もSVの気持ちや考え次第で決まるという規律が乱れた状態でもありました。それでも10名以下の小規模センターであったため、問題が表面化することはありませんでした。
そんなコールセンターの業務拡大にともなう全面見直しと、規模拡大にともなうシステムと体制刷新のプロジェクトが動き出します。
現状はマニュアルがなく、人材育成はもっぱらベテランの側について仕事を覚え、そのしくみも属人的に運営されていました。業務自体は覚えることが多くて繁忙のため、教える時間も限られていることから、そのSVは新規採用にあたって即戦力しか受け入れないという方針を立てます。
プロジェクトチームでは属人的な仕組みを体系化してマニュアルにすること、現状の採用の要求スキルが高くて必要人数集まらないため、未経験者から育てる仕組みを作る必要があると判断しましたが、このSVが即戦力の採用以外考えられないと、この計画に断固反対し、プロジェクトへの一切の協力を拒否しました。結果的にSVに仕事を人質に取られた形となり、プロジェクトが頓挫してしまいました。
またとあるコールセンターでは応答率が低く、処理時間の個人差が激しいことが原因であることが分かりました。現場観察と個人のヒアリングを通じて追跡調査したところ複数の要因が発覚しましたが、そのひとつにこんなことがありました。
そのコールセンターではWebに関する問合せが少なからずあり、CMの多くがIT系にはあまり強くない人が多かったため専門のWebチームによるサポート体制を取っていました。しかしWebチームのSVは仲の良い人の電話はすぐに代わってくれるものの、そうでない人からの依頼だと口頭で説明するばかりでなかなか代わってくれず、一部のCMがコールセンター内をさまようか、よくわからないまま電話に戻り、相手が諦めるまで曖昧な応対に終始するということに陥っていました。
一方でこんなこともありました。
SV成功例
とあるコールセンターではSVに任命しようと打診した全てのベテランCMから断られたため、やむを得ず在籍期間は短いものの、元気で面倒見の良い熱血漢の人にSVになってもらいました。
知識はベテラン勢に及ばず、さらにクレーム対応もさして上手というわけではありませんでしたが、常に周囲に声をかけ陽気に振る舞い、困っている人がいたらすぐに電話を代わり、下手なりに一生懸命対応する姿に周囲も「しょうがないな」という感じで温かく見守る雰囲気となり、結果的に全員でこの若いSVを支える連帯感のようなものが生まれて業務パフォーマンスまでも向上しました。
またこれとは逆に、いかにも的な“ボスの臭い”を漂わす人物をSVに抜擢したところ、そのチームはいつも粛々と業務をこなし、かつミスも少なく、また人間関係の問題も皆無というコールセンターもありました。
SV採用・任命のポイント
それではSVの採用や任命にあたって、注意すべきポイントは何かまとめてみます。
まず現状では外部からSVを採用するのは難しく、採用するなら給与面で相応の処遇を用意する必要があります。
また他のコールセンターでSVをやっていたから、ここでもいけるとは限りません。それは企業によってSVの役割の差が大きいことや、これまでのやり方に固執し、新しい職場でのやり方になじめないこともあるからです。結果的に内部からSVを育てていくほうが効率的かつ確実です。
【SVを採用するときの面接ポイント】
- 後天的資質よりも先天的資質にフォーカスしてチェックする。
(知識不足は時間が解決するが、性格は変わらない。) - コミュニケーション力は高いか。
(現場の人間と上手くやれる友好性があるか。) - ロジカルな思考の人物か。
(業務改善が必要な時に、属人的な手法に走るか体系的な手法を取るかで差が出る) - 意識の柔軟性や臨機応変さはあるか。
(業務の大幅な見直しが必要になったとき、今までのやり方に固執するか、パッと頭を切り替えられるかで差が出る。)
あえて個人的な意見として言わせてもらうと、「オネエ系SV」がこれまでの経験ではSVとして最高でした。彼らは何といっても“おばちゃんに強い”のです。コールセンターというところは圧倒的に女性が多い”大奥”のようなところです。女性を敵に回してコールセンターを追い出された男性管理者を何人も知っています。
ところが、この「オネエ系SV」は女性陣の愚痴もわがままも軽くいなしてしまうなど女性の扱いが上手いだけでなく、厳しいことを言っても不思議と反発を受けるということがありません。もちろん男性陣のプライドを傷つけず上手く操ることにも長けています。
あなたのコールセンターにマツコ・デラックスさんがSVでいるというのをイメージしてみてください。何かうまくいきそうな気がしませんか。
SV任命のポイント
内部からSVを選抜する際に、まず業務知識やスキルが優先されているかと思います。これはこれで間違ってはいませんが、これだけで選んではなりません。
離職率の調査でも人間関係、特にSVとの相性や人間性は離職理由の上位に入ってきます。SV採用のポイントと同様に、先天的資質を十分加味して人間性に問題があるようなら任命を避けるべきです。
「仕事はできるが、一匹狼タイプ」
こういう人はSVに向かないばかりか、当の本人も人間関係が苦手なことを自覚しています。決して「成長」、「自己変革」などという“綺麗ごと”を振りかざして強要してはなりません。
「この人をSVに任命したら、周囲の人たちはSVとして推戴し、ついていくか」
この一点がとても重要です。
SV育成のポイント
会社は“SVを任命して終わり。あとは本人の自助努力で。”、と丸投げしてはなりません。SVとして成長するために必要な仕組みや支援が不可欠です。
【仕組みづくり】
- SVとして最低限必要な知識とスキル(ミニマムスキル)を定義し、その定義を満たすために必要な教育カリキュラムを備えること。
- SV任命基準を明確にし、人事のクリアさを確保すること。
- SVの仕事内容や要求レベルに応じた処遇の用意。
- 管理業務遂行に必要な補助スキル(例:ExcelやPowerPoint、Word、専用システムなど)のトレーニングがあること。
- SV任命後も継続してスキルアップさせていく長期計画(例:分析、教育、指導など)があること。
【意識づくり】
- 外部の研修やセミナーを受講させたり、資格を取らせたりと、スキルアップに手間とお金をかけることで、会社の期待を本人に実感させること。
- 社内会議に参加させたり、社内事情(数値的なこと)も含めた情報を開示したり、会社視点でも物事を考えられるよう働きかけること。
(これ以外と大事です。社内からの昇格の場合、元がCMのためどうしてもCM側の味方になりやすく、何か不満やもめごとがあった際に徒党を組み反乱分子の旗頭として業務を人質にとるリスクがあります。事実、とあるコールセンターではSVが中心となって、時間になってもコールセンターに誰も来ないという業務ボイコット事件が起こったこともあります。)
【サポート体制】
SVの任命を嫌がるコールセンターは、「SVの処遇のわりに仕事がきつすぎる」、「SVを会社が助けてくれない」のどちらかが必ず発生しています。
SVの仕事の配分を見直すこと、忙しい場合は相応の処遇を用意すること、SVが困ったときにはすぐに相談に乗りヘルプする体制を整えることが大事です。特に任命前と任命直後は不安に感じるSVが多いので、まめにコミュニケーションとるだけでなく、周囲も新人SVをサポートするよう働きかけることが大事です。
SVの離職防止のポイント
優秀なSVの離職ほど痛いものはありません。会社としては優秀なSVにはなるべく長くいてほしいとおもうのですが、転勤や家庭事情などやむを得ない場合があります。
ただ彼らの離職理由に、「業務や会社に不満はないが、生計が成り立たなくなったので辞める。」という理由が意外と多いのも事実です。かつて学生だったSV君もいつかは家庭を持ち、家族が増えるかもしれません。皆さんのコールセンターの人事制度はこれらの人々に対して十分対応できているでしょうか。こういうケースでよくみられる問題は会社の人事制度をそのままコールセンターにもあてはめているケースです。
コールセンターでは非正規社員の割合が高いため、会社の制度をそのままあてはめると昇給を含めた処遇に限界が生じ、みすみす優秀な人材を失うことになります。昨今のコールセンターでは優秀な人材の引き留めのため、契約社員や正社員登用などキャリアパス制度を導入する企業が増えました。またコールセンター専用の人事制度を作り、時給を上げると固定費上昇になるのでボーナスを支給するというところもあります。
または処遇ではなくやりがいを求めているケースもあり、権限移譲やコールセンターやSVの地位向上が効果的なこともあります。働く人たちが何を望んでいるのか、まず調べたうえで適切な施策を打ち出すことが望まれます。