【顧客対応力アップ】その1(前編) 苦情に強くなる最初のステップ

私は苦情対応があまり得意ではありません。そんな私が苦情対応について語る。それはコールセンターにとって苦情対応は避けて通れないからです。

下手な私が、下手なりに試行錯誤と努力を続ける中でいくつか見えてきたこと。それを少しお話しするとともに、私と同じように苦情対応に苦労している方々と一緒に考えていきたいと思います。

苦情対策、最初の1歩

苦情対応をしている時のオペレーターの気分はどうでしょうか。「あーいやだ」、「早く終わらないかな」、「あんたが悪い癖に、これじゃあ言いがかりだよ」など、このネガティブな気分がどんなに隠しても言葉の端々にでてしまいます。そして相手はこの空気を敏感に察知し、怒りの導火線に火が付きます。

お客さまの質問にはしっかりと答え、怒りにも寄り添ってきたつもりですが、何か違うと感じていました。苦情対応上達のコツは、とにかく経験を積むことですが、テクニックだけではどうにもならない要素があると感じ、苦情対応の上手な人や下手な人の音声を数多く聞いた結果、あることに気づかされました。

苦情対応でまず必要なのは、“ネガティブなマインド”を切り替えることではないかということです。それではどうやってマインドを切り替えていくのか、まず苦情そのものから見つめ直してみましょう。

苦情って何?

苦情とはそもそも、お客さまが何らかの不愉快な体験をしたことによって感じる不満です。と同時に、苦情を申し出て解決を望むことで、私たちの商品やサービスをこれからも利用したいという意思の表れでもあります。

決して苦情を申し出るお客さまは“敵”ではありません。

まずこのことを理解することが第一歩です。そして苦情を申し出るお客さまは、私たちが気づかない問題点を指摘し、私たちの商品やサービスをよりよくしようと思って下さる貴重な方々でもあります。

そのお客さまの手助けをし、一緒に商品やサービスの質を高めていくことがコールセンターの努めです。しかしながら、すべての不満を感じたお客さまが声を上げるわけではなさそうです。次に、その苦情の全体像や影響は何か考えてみましょう。

苦情を申し出る顧客の姿

アメリカにTARP(Technical Assistance Reseach Program)という会社があります。顧客ロイヤルティ研究のリーディングカンパニーで、日本でも「グッドマンの法則」(*1)で有名なジョン・グッドマン博士が創業した会社です。TARP社は『顧客』について様々に調査し、その姿を明らかにしてきました。

*1:「グッドマンの法則」は日本での顧客満足研究の第一人者である、故佐藤知恭氏が提唱した法則。出典:佐藤知恭『体系:消費者対応企業戦略』(デジタルパブリッシングサービス)
※詳細についてはNPO法人 顧客ロイヤルティ協会Webサイト参照。http://www.customer-loyalty.jp/goodman.html

① 不満を持った顧客のうち、30%は沈黙の批判者

「氷山の一角現象」という言葉をご存知の方は多いと思います。苦情が表明されるのは苦情全体の一部であり、苦情のほとんどは氷山のように水面下にあって見えないということです。

  • 05%:経営トップに対し苦情を言う。
  • 65%:各部署や現場代表者に対し苦情を言う。
  • 30%:問題はあるが苦情は出さない。

from TARP, Arlington, Virginia, 1990.

from TARP, Arlington, Virginia, 1990.

コールセンターが応対するのはこの65%の部分の顧客層にあたり、最前線にいるオペレーターの苦情対応能力は、企業経営に大きな影響を与えます。しかも企業トップに届く苦情は全体の5%に過ぎず、経営者は苦情を現場任せにせず、積極的に関わることは責務と言えますが、コールセンターに顔を見せる経営者は稀です。

外資系の外国人経営者はその点、頻繁にコールセンターにいらっしゃいます。本社内にコールセンターがあれば一日一回は見にきたり、別の拠点にある場合は、月に一度の定例ミーティングに参加したりします。それは自分に届く苦情が”氷山の一角“でしかないこと、苦情がおよぼす影響が甚大であることを理解しているからです。

有名なところでは、昨年V字回復で話題になったマクドナルドのサラ・カサノバ社長です。期限切れ鶏肉と異物混入事件以降、2年間で実に4万3,500キロ(地球1周以上!)移動して、全国の店舗を周り、顧客そして従業員の声にじかに耳を傾け続けました。

一方で日本人経営者となると、社長就任直後に大名行列のようにして来ますが、それ以降はほとんど来ることはありません(しかもコールセンターが一番暇な午後3時ごろに来て、暇を持て余しているオペレーターたちを見るなり、「人が多すぎるのではないか?人を減らせ!」などとトンチンカンなことを指示したりするのです。そのため、現場責任者も社長を呼びたがりません)。

企業にとって表面化した苦情に対応することは重要ではあるものの、残りの「沈黙する30%の不満顧客」への対応が今後はより重要になってきます。というのも、この層は他社へ離反するだけでなく、人づてやSNSで不満を拡散させるためです。

NPO法人 顧客ロイヤルティ協会HPより

NPO法人 顧客ロイヤルティ協会HPより

それではその影響はどの程度か、さらに調査結果は続きます。

② 苦情1件につき、3人の顧客を失っている。

  • 不満を持った顧客のうち、苦情を申し立てるのは27人中1人。
  • 苦情のうち1/5は深刻な苦情である。
  • 深刻な苦情を寄せてくる顧客の50%が次の機会には他の企業に行ってしまう。

不満を持った顧客27人中、深刻な苦情であるのは1/5の5.4人、その50%である2.7人(約3名)が他社に流れます。仮に年間100件の申告された苦情があったとすると、表面化しない苦情を含めた総苦情件数は2,700件で、深刻な苦情は540件。

そして他社に流れる顧客は270名になります。顧客一人当たりの総収益を¥100,000と仮定するなら、その企業は苦情によって¥27,000,000を他社に献上することになります。

それでも皆さんは苦情を現場任せにするべきだと思いますか?

苦情は解決するだけでなく、解決スピードこそが熱狂的なファンを作るチャンス

TARPが苦情処理と顧客の再購入率について、顧客が再購入したケースを4つに分類し、それぞれ100ドル以上の高額商品購入者とそれ以下の購入者とで調査しました。

苦情処理と顧客の再購入立の関係

  • 再購入率が最も高かったグループは「苦情が早急に解決されたとき」の顧客。
  • 再購入率が最も低かったグループは「苦情を言わない」顧客。
  • その差は高額商品購入者ほど顕著になる。
  • 「苦情が解決されたとき」よりも「苦情が早急に解決されたとき」の再購入率は、高額商品購入者で28%も増え、それ以下の商品購入者でも25%増える。

コールセンターの多くでは苦情件数や解決度をKPI(管理指標)に設定して取り組んでいるものの、解決スピードまでフォーカスして取り組んでいるところは、あまり見かけません。上記のグラフでもわかるように、単に苦情を解決するだけでなく、その解決スピードが速いことで顧客の再購入の差は歴然としています。そして苦情を早急に解決するには、コールセンター内だけで出来ることに限界があります。解決スピードを上げるための仕組みづくりは会社をあげて取組む必要があります。

再購入の数値の高さからみても、かつて不満を感じていた顧客がその会社の”ファン”、“信者”に変わったと言っても差し支えないほどです。

コールセンターにとって苦情とは”ファンを作る絶好の機会”です。

その視点をしっかりとオペレーターに植え付け、苦情は嫌なものではないというネガティブ意識を払しょくすることが、まず苦情対応教育の第一歩です。

さらにその意識を加速させるために、苦情の解決度や解決スピードに関して、何人をファンにできたかコールセンター内で競ったり、表彰制度に盛り込んだりと、苦情対応に対する達成感を感じる制度を作ってみてはいかがでしょうか。

後編へ続く→