【CX向上】脱マニュアル対応の“キモ”は「守破離」にあり

カスタマーエクスペリエンスの誤解

「カスタマーエクスペリエンス」という言葉をあちこちで聞くようになってきました。
と同時に、「?」と思うようなことも増えてきました。

それは、
「カスタマーエクスペリエンスを、顧客満足向上の延長線でとらえている」ことです。

少し違います。
カスタマーエクスペリエンスの本質を少々粗く言い表すなら、
「収益に結び付く顧客満足向上の仕組み」であり、
いくら顧客満足度を向上しようとも、それが収益に結びついていることを立証できなければ、ただの顧客満足向上活動でしかないということです。

とはいえ、「個」の顧客体験を向上させ収益につなげる役割のひとつを、コールセンターが担っているのは間違いありません。
コールセンターがやっている、いわゆる”マニュアル対応”は、あくまで“マス”に対してであって“個”ではなく、一人ひとりの顧客体験を良くしていくというのは、“脱マニュアル”に他なりません。

今日は、「そのカギは『守破離』にあり!」というお話です。

守破離とは

元は茶道の千利休の教え、「規矩作法 り尽くしてるともるるとても本を忘るな」からきた言葉のようですが、今や茶道だけでなく武道や、おおよそ“道”の付くものすべてに使われるだけでなく、我々の生活や仕事にも当てはまる言葉です。

【守】

修業にあたり、まず師匠について徹底的に「型」を学ぶこと。素直な心で師の教えを忠実に守ることで、その「型」を習得する。

【破】

習得した「型」を独自に工夫し、自分に合ったより良いと思われる「型」をつくることにより、既存の型を「破る」ことができるようになる。

【離】

さらに鍛錬、修業を重ねて独自の境地を切り開くことで、既存の型に囚われることなく、言わば型から「離れ」て自在となることができる。

仕事においても、新入社員はまず先輩について仕事のイロハを学び、独り立ちしたのちに、各自の努力と工夫によって”その人らしさ”が現れ、最後は「あなたしかできないこと」、「あなたでないと駄目なこと」が出てきますね。

人物を例に挙げると、宮本武蔵が「離」の境地に到達した人物といえます。
彼の剣技には「型」がなく、むしろ超越しているがために対峙した人物は皆、間合いに踏み込むことができなかったと言われています。

なぜ守破離?

コールセンター業務で考えてみると、まず新人はマニュアル対応を徹底的に学び、OJTで知識とスキルを習得し、テストの後デビューします。

最初のうちはぎこちなかったとしても、経験を積むごとに知識とスキルが上がり、自分の言葉で話すことができるようになったり、苦情などの難しい内容にもうまく対応できるようになったりします。

さらに努力を続けることで、周囲が感動するような素晴らしい応対をする方が現れます。

皆さんの周りに惚れ惚れするような電話応対をする人、特に苦情応対に対して無敵で、どのような難しい応対も円満に解決してしまう人がいませんか。
そしてそのテクニックは「真似できないもの」であり、「マニュアル化できないもの」ではありませんか。

そうなのです。
まだマネできるうちは「守」のレベルでしかなく、「破」や「離」に到達すると、それはその人しかできず、教育して何とかなるというものではありません。

それを図に表すとこんな感じになります。

「守」の段階で徹底的に基礎を学び、自己研鑽によって開眼することで「破」の領域に到達します。そしてさらに道を極めた人だけが「離」の境地に到達します。
これらは他力や教育で導くことはできません。

これらの領域にある人は以下のように分類できます。

「守」
・半人前~一人前の段階。
・応対レベルに納得感がある。

ここまでは教育で導くことができます。

「破」
・名人の段階。
・応対のすばらしさに、周囲が感心するレベル。

話しの上手い人、自分の言葉で美味く表現できる人、難しい応対でもそつなくこなしてしまう人など、明らかに「個」のスキルが際立ち、他とレベルの違いを見せつける。

「離」
・芸術家の段階。
・応対を聞くものを感動させ、畏怖心すら抱かせるレベル。

どのような相手や内容であっても、いつの間にか自分のペースに巻き込み、気が付いたときには怒っていたお客さまが、ニコニコして終話する。”人たらし”と呼ばれる人や、熱狂的な信者を持つ人たちに多く見られる。

「守破離」到達のキーワードは『不立文字』

禅の教義に「不立文字」という言葉があります。
「道を極めるには、文字や言葉から離れ、ひたすら座禅することで釈迦の悟りを直接体験する。」という意味になります。

もうすこしかみ砕いて説明すると、
「文字は有意義ではあるものの、しかし文字に頼り切ってはいけない。必ず自らの体でもって体験するのでなければ、本当に知ることはできない。」
ということになります。

したがって、「破」や「離」を目指す方は、

「文字で真理は悟れない」
「文字の中に真理はない。」
    ↓
「実体験を重視せよ」

業務の体験を通して、自らの意思と努力で顧客応対の真理を見つけることが求められます。

組織として「守破離」に導くには

既に言及していますが、教育でオペレーターを「破」「離」に導くことはできません。本人の意識改革によってのみ到達できます。

しかしながら、仕掛けで入り口まで導くことはできます。

①良い応対を褒める仕組み。

素晴らしい応対について、積極的に褒め、周囲に知らしめることです。
これが本人の自覚につながります。

また“見える化”することも効果的です。
社内での応対コンテストを開催して優秀者を表彰したり、応対スキルに応じて格付けしたり、応対優秀者のストラップを他の人とは違う目立つものにしたり、名札などに星マークなど目立つ勲章のようなものをつけたりなどです。
優秀者を目立たせることで、周囲の期待が集まり、その優秀者の自覚につながるばかりか、模範者としてその期待を“裏切りたくない”、“裏切れない”状態に誘導できます。

②良い応対を大事にする文化づくり。

まずもって組織が、良い応対に関心を持ち、応対を良くすることに執念を持って取り組む必要があります。
そのためにかかる手間やコストを惜しんでいては、いつまでたっても素晴らしい顧客体験を提供できるオペレーターを増やすことなどできません。

環境づくりとインフルエンサーづくり、この二つに取り組んでみませんか。