部下指導に役立つ十牛図(じゅうぎゅうず)
みなさんは「十牛図(じゅうぎゅうず)」というものを聞いたことがありますか?
禅の教えで、悟りに至るまでを10段階のプロセスで表現したものです。
これがとても示唆に富むものであり、部下育成の一助になるかもしれないのでご紹介します。
目次
十牛図とは
中国宋代の禅僧、廓庵(かくあん)によるものが有名で、ここでは1頭の牛が登場します。
この牛というのが「真の自己」を表し、逃げだした牛を連れ戻し飼いならす修行の過程、すなわち自分探しの旅を通じて、禅の修行と悟りの境地に到達するまでの過程を10枚の絵で表現したものです。
これが自分自身や部下の成長とも妙にフィットする感覚に陥ります。
それでは人材の成長になぞらえて見ていきましょう。
①尋牛(じんぎゅう)
牛を捜そうと志すこと。悟りを探すがどこにいるかわからず途方にくれた姿を表す。
真の自己を求め、自分探しのための一人旅が始まります。
それはあたかも、会社に入社したばかりの新入社員が、右も左も分からないままの姿のようでもあります。
②見跡(けんせき)
牛の足跡を見出すこと。足跡とは経典や古人の公案の類を意味する。
牛の足跡を見つけます。この足跡というのは、自分を知る手がかりのようなものです。
新入社員も会社に慣れ、自分の仕事を続けているうちに、自分の強みや超えるべき課題らしきものが見えてきます。
③見牛(けんぎゅう)
牛の姿をかいまみること。優れた師に出会い「悟り」が少しばかり見えた状態。
牛の足跡を追ううちに、ついに牛を見つけました。
仕事を続けるうちに、最初の壁もしくは修羅場にぶち当たります。これはさらなる成長のために乗り越えるべき“何か”です。
④得牛(とくぎゅう)
力づくで、牛をつかまえること。何とか悟りの実態を得たものの、いまだ自分のものになっていない姿。
ついに牛との戦いです。それは己との戦いでもあります。油断すると牛は逃げてしまうので、しっかりと綱でつなぎ続けなければなりません。
今までできなかったことが、当たり前のようにできるようになるためには、多くの迷いや悩みを自分なりに解決しなければなりません。
その修羅場を乗り越えてこそ、自己発見と自己成長につながります。
決して逃げてはならないのです。
そして、この成長のチャンスを逃してはならないのです。
ここから逃げてしまった人は、永遠に自分探しの旅で彷徨うことになります。
➄牧牛(ぼくぎゅう)
牛をてなずけること。悟りを自分のものにするための修行を表す。
自分自身を飼いならす、すなわち自分のことを本当に知る、自分の知らない自分に気づくことを表します。
ついに逃げずに修羅場を乗り越えたその人は自信を持ちます。しかしまだ油断大敵。しっかりと手綱を引き締め仕事に向き合う必要があります。
⑥騎牛帰家(きぎゅうきか)
牛の背に乗り家へむかうこと。悟りがようやく得られて世間に戻る姿。
すっかり懐いた牛にまたがり、家に帰ります。
仕事に真摯に向き合い続けた結果、最初は大きな壁に見えた課題すら、楽々と乗りこなしてしまうのです。
⑦忘牛存人(ぼうぎゅうぞんにん)
家にもどり牛のことも忘れること。悟りは逃げたのではなく修行者の中にあることに気づく。
牛と自分が一体化し悟りを開くことで、牛の姿が消えてしまいます。
仕事とは何かに開眼し、過去の成功体験に縛られず、また自己を誇らず、物事にこだわらず、自分を見失わない境地に到達します。
⑧人牛倶忘(にんぎゅうぐぼう)
すべてが忘れさられ、無に帰一すること。悟りを得た修行者も特別な存在ではなく本来の自然な姿に気づく。
旅人の姿も消え、「空」の境地に到達します。悟りを開いたことすら忘れろと示唆しています。
もはや自分のこだわりや、立場、都合、執着心といった煩悩から脱却し、仕事や仲間、お客さまと向き合えるようになりました。
➈返本還源(へんぽんげんげん)
原初の自然の美しさがあらわれてくること。悟りとはこのような自然の中にあることを表す。
迷いを乗り越え、悟りの境地に至ることで、悟りを求めていた頃の世界に戻ってきます。「悟了は未悟に同じ」という、悟ってしまえば悟る前と同じという禅の世界を表します。
全てを乗り越えた人は一皮むけた存在となり、あるがままに受け入れる一回り大きな存在となるのです。
⑩入鄽垂手(にってんすいしゅ)
まちへ... 悟りを得た修行者(童子から布袋和尚の姿になっている)が街へ出て、別の童子と遊ぶ姿を描き、人を導くことを表す。
町へ降りて人に接し、衆生に救いの手を差し出します。かの人に交わった人は、不思議とすくわれた気持ちになります。
道を極めたその人は良い上司となり、これから旅に出る新入社員を導きます。
その頃は少しメタボになっているかも。
部下を導く上司として
部下を今抱えている上司の方にお聞きします。
部下の育成と管理は大変ですね。
そして配下の部下の方々は、今この十牛図のどのあたりにいらっしゃいますか。
おそらく1~4辺りではないでしょうか。
特に4の得牛で闘い中の部下がいらっしゃるなら、この十牛図を見せてあげてください。
今あなたは修羅場にいること。
その修羅場は逃げてはならないこと。
(逃げたらふりだしに戻り、逃げたところで、また牛と向き合うことになる。)
乗り越えた先には素晴らしい世界(自分の成長)があること。
そして、
上司であるあなたは今、十牛図のどこにいますか。