「傾聴」の真の意味を知ると、電話応対が上手くなる
「お客さまと会話するときは、『聞く』じゃなくて、『聴く』!」
「お客さまの話を聴くときは、『傾聴』するのが基本!」
コールセンターの教育現場でしばしば聞くフレーズです。
もし教育を担当している方なら、このようなことを新人オペレーターに話していませんか。それでは、「聞く」と「聴く」の違いについては、どのように説明していますか。
「『聞く』には”耳”しかないけど、『聴く』は”耳”と”目”と”心”で聞くのですよ。」
こんな感じで説明していませんか。
このような説明でやれといわれても、オペレーターは困るだけです。しかもアプローチが間違っています。
では、具体的に「傾聴」とはなんなのでしょうか。
そんな「傾聴」について今日は考えてみましょう。
目次
和して唱えず
紀元前4~3世紀の人、荘子という思想家がいました。
彼が著したとされる『荘子』では、多くの寓話を通じて無為自然の在り方を語っています。
そんな『荘子』にこんな話があります。
衛の国に哀駘它(あいだいた)という男が住んでいました。
この男、容貌が驚くほど醜く、
知識力も乏しく
権力もなければ財産もない。
ところが、彼は男からも女からも慕われ、特に女性からは妾でもいいから一緒になりたいとせがまれる始末。
さらに噂を聞いて哀駘它を招いた魯の国の君主までが、彼の人柄に魅了されてしまいました。
そんな哀駘它がしていたこととは、”和して唱えず”
誰と話をしても、和やかに相手の話を傾聴していました。
傾聴することで、話し手の心の痛みをやわらげ、相手と心を通わせ喜びを失わず、接する相手の心に変化を生んでいたのです。
このように我執を抑え相手の話に無批判で傾聴できることこそ「徳」であると述べています。
面白いですね。
傾聴できる人物が素晴らしいという話を2,400年以上前の人物が採り上げる。
人間は昔から変わらないのだなということに気づかされます。
さて「傾聴とは何か」の片鱗が現れました。
もう少し掘り下げてみましょう。
「傾聴」の語源
まず「傾聴」の言葉から見てみましょう。
「傾聴」はもともと象形文字でこのような形になっていました。
それがこのような字になりました。
「傾ける」という言葉通り、「傾」の字には、神に対して身をかがめて拝む姿が表されています。
そして「聴」の字について、左側は人がつま先立ちで大きく耳をそばだてるという字。右側は諸説ありますが、「14の心」、「10の目を一心にして」など、いわゆる全身でという字。つまり身を乗り出して、全身を耳にして聞くという意味が含まれている事を指します。
このようなことから、「傾聴」の指導には「耳を傾け、真っ直ぐな心で聞きなさい」というような指導がされているかと思います。
しかし”真っ直ぐな心”と言われても、どうやっていいのかよく分かりません。
そこで、「傾聴」をベースに活動している”業界”をご紹介します。
「傾聴」を実践しているホスピス
「傾聴」を積極活用するところにホスピスがあります。
ホスピスとは終末医療のひとつです。
日本であまり聞きなれない言葉ですが、それは日本の医療機関にはほとんど存在しないためです。西欧諸国では、医者とホスピスの先生が病院にはいます。というのも、ホスピスとは”キリスト教にもとづく「魂のケア」”がベースにあるためです。
「死」が”確定”してしまった人物は、
まずその「死」を拒絶し抵抗します。
しかし、そのうちに「死」が避けられないものというのを実感し始めると、その苦しみや悲しみに苛まれていきます。
そして、その自分の苦悩を誰も分かってくれないと感じ始めることで孤独感を抱きます。
そして最後に絶望してしまいます。
ホスピスはその余命わずかな患者に対し、患者が「死」を受け入れられ、安らかな死を迎えられるよう、患者の心を”治療”します。
そのホスピスがしていることが、「傾聴」です。
患者の苦しみや悲しみを聴くことで、患者は気持ちが少し楽になります。
そして話しているうちに、自分で心が整理できます。
その結果、患者は前向きな気持ちになります。
それではホスピスで実践されている「傾聴」についてご紹介します。
「傾聴」の実践に必要な3つのステップ
ホスピスの世界では「傾聴」の仕方について、3つのステップが重要であるとしています。
①何を聴くのか
まず理解すべきはやり方ではなく、その目的を理解することです。
ホスピスの担当医は相手の苦しみや悲しみ、困難を聴くつもりで話を聴きます。
言葉ではありません。
その奥にある気持ちです。
なぜなら、聴くことが”援助”になるためです。
”援助”とは、例えば医者が患者の病を治した時に、患者が医者に「助かりました」、「ありがとうございました」という言葉をかけますね。
相手の苦しみを和らげる、軽くする、無くすことが”援助”です。
まずこの大前提を理解することが「傾聴」するために必要なことです。
②なぜ聴くのか
それは聴くことで援助になるからです。
話を聴くことで相手の気持ちが落ち着き、考えが整い、生きる力が湧いてきます。
そのため、”相手の話を聴くだけで良い”と思うことです。
何か気の利いたことを言おうとか、アドバイスや慰めの言葉をかけようとか思わなくてよいのです。
ここは大事なポイントですよ。
③どのように聴くのか
先の二つを理解してはじめてやり方の話になります。
そもそも人が絶望的になる要因は「孤独」です。
「苦しみを分かってもらえない」
この時に人は孤独を感じます。
孤独は人と一緒にいても感じます。
そして孤独が深まると、人は生きる希望を失います。
それでは、どうすればよく聴いたことになるのか。
それは
- 相手の苦しみをしっかり聴こうと思う心を持つ。
- 相手の言った言葉と同じ言葉を返す。
これで相手は「わかってもらえた」と思えるのです。
その時に「自分は独りではない」と感じることができます。
そして元気になります。
「相手の苦しみをしっかり聴こうと思う心を持つ」とは、
相手の話を判断しない。
ありのままに受け入れる。
人は普通相手の話を聞いているときに、色々な考え事をしながら聞いているものです。
次に自分が話すことを考えていたり、相手の話を批判的に聞いていたり、正誤の判断をしながらだったり、自分なりの答えを探しながらであったりです。
それをしてはならず、ただただ”今に集中”することです。
そして相手の気持ちを判断・評価することなくそのまま受け取ることです。
たとえそれが間違ったもの、我がままであったとしてもです。
「相手の言った言葉と同じ言葉を返す」とは
「~で、気持ちが落ち込むことがあるのですよ」
「そうですか。それで気持ちが落ち込むのですね」
オウム返しの手法については、コミュニケーションに関わっている方ならすぐに理解できますね。
そう”共感”です。
共感フレーズを返してあげるだけで、相手は「理解してくれた」と思うことができます。
しかし、何かアドバイスしたり説教したりすると、相手に反発され、かえって逆効果になってしまうことも少なくないでしょう。
ここまで来て、ハタと気づきませんか。
- 相手の苦しみをしっかり聴こうと思う心を持つ。
- 相手の言った言葉と同じ言葉を返す。
この「傾聴」のやり方は、「共感」そのものです。
「傾聴」=「共感」?
「耳を傾け、真っ直ぐな心で聞きなさい。」などと言われても、何をしてよいのか具体的に分かりませんが、「共感フレーズを使いながら、まず相手の気持ちに共感しなさい。」と言われたら、なんとなくどうすればよいのか見当がつきます。
ただ難しいのは、「相手の話を判断せず、ありのままに受け入れる」点です。
余計なことを考えず、”今に集中して相手の話を聴くこと”が大事です。
まだ知識やスキルが弱い新人は、相手の話している最中に、回答を頭の中で探すのにいっぱいいっぱいで、相手の話に集中できません。
だからまず知識をしっかりと学び、余裕をもって応対できるよう、初期教育とフォローアップ教育がとても重要になります。
「余計なことを考えず、今に集中する!」
これこそが、電話応対力を劇的に向上させるキーワードかもしれません。
そしてこの「傾聴」は上司と部下とのコミュニケーションにも活用できるので、参考にしてみてください。