2018.06.11
2022.02.18

【KPI】生産性管理の基本 AHTとは

コールセンターにはKPIがたくさんあります。
コールセンターを運営している企業の方から、しばしば「どの指標を管理すべきですか」と聞かれます。

その際には、「貴社のサービスを利用するお客さまの満足や不満足、収益に影響を及ぼす可能性の高い要因を管理できるKPIをマネジメントし、改善すべきです。」と答えます。

例えば、緊急性の高い業務であれば「つながりやすさ」が大事ですね。
ネット証券などスピードが問われる業務であれば「つながりやすさ」「テキパキと処理すること」
金融関係であれば「正確であること」、テクサポであれば「問題を解決すること」

業務によってお客さまが優先するものが違うはずです。
皆さんの業務では何が大事になりますか。そこから考えていくと、答えを出すのは難しくありません。

一般的に考えると、多くのコールセンターに共通する最優先KPIとして、以下の3つが該当するのではないでしょうか。

  • 応答率
  • 稼働率
  • AHT

これまで応答率と稼働率について説明してきましたので、今回はAHTについて説明します

※応答率についての記事はこちら
※稼働率についての記事はこちら

AHTとは何か

AHT(Average Handling Time)とは通話時間と保留時間、後処理時間の平均処理時間を指すコールセンター業務の用語です。

AHTは主にセンター全体とオペレーターの生産性を見るKPIで、適切なスピードで業務が行えているかだけでなく、業務プロセスや個人パフォーマンスの課題を洗い出すこともできます

一般的にAHTが短いことのメリットは

  • 少ない人数で、より多くの電話対応ができる
  • 電話がつながりやすくなる(放棄呼率の低下)
  • 運営コスト削減につながる

以上の3点で、処理時間は短ければ短いほどメリットが大きいことになります。

その一方で、デメリットもあります。

間違ったAHT管理

■通話時間を無理に短縮しようとすると

  • 事務的な、冷たいと感じる応対になりやすい
  • お客さまのために、もう一歩踏み込んだ対応をオペレーターが避けやすくなること(応対品質が低下)
  • 苦情応対が多いと平均通話時間の数値が悪化しやすく、評価や判断を誤る
  • 通話時間を個人評価に組み込むと、簡単な業務をしているオペレーターの評価が高くなりやすく、苦情対応の多い、または難易度の高い業務をしているオペレーターの評価が低くなりやすいこと

■保留時間を無理に短縮しようとすると

  • オペレーターが困っても保留にすることをためらい、自分で解決しようと頑張りすぎることで、苦情やミスにつながりやすい
  • 無理して苦情になった場合、そのリカバリー負担が増す
  • 何でも一人で対応しようとすると、結果的に通話時間が長くなりやすい
  • 新人の負担やストレスが増え、離職につながるリスクが生まれる

■後処理時間を無理に短縮しようとすると

  • 事務処理が雑になり、ミスを誘発しやすい
  • 応対中に後処理に入ろうとするため、お客さまの話に集中しづらくなる
  • オペレーターが、問合せ内容の登録を省略しがちになる(重要な情報が抜けたり、その後の連携に問題が生まれたりすることがある)
  • タイピングスキルの低い人や文章を簡潔に書けない人の処理時間が劇的に早くなることはなく、結果的にストレスを増やすことになる(離職率の増加)

AHTの管理は、決して本人の努力任せにしてはなりません。
それではどのように管理すべきなのでしょうか。

AHT管理のポイント

(1)課題は仕組みで解決する
(2)適正な処理時間を設定し管理する
(3)処理時間は常時モニタリングする
(4)無駄な時間を減らすことにフォーカスする
(5)個人のばらつきを極小化する

(1)課題は仕組みで解決する

処理時間が長いことで、考えられる課題。

■通話時間が長い

  • 業務内容が複雑
  • 専門用語など、お客さまに分かりにくいものが多い
  • 業務プロセス自体が長い
  • 話さなければならないルールが多すぎる
  • 高齢者からの問い合わせが多い
  • 新人オペレーターの割合が高い
  • 知識やスキル不足のオペレーターがいる
  • 回りくどい話し方をするオペレーターがいる
  • 早い人と遅い人の個人差が激しい
  • 電話がつながりにくく、苛立ったお客さまの苦情対応から始まる

■保留時間が長い

  • 新人オペレーターの割合が高い
  • 知識やスキル不足のオペレーターがいる
  • イレギュラー対応が多い
  • SVなど管理者が忙しい(SVが電話対応しているか、他の作業中でオペレーターがすぐに質問できない)
  • SVが常時モニタリングしておらず、早めのフォローをしていない
  • 顧客応対履歴がだらだらと長く、目を通すのに時間がかかる
  • 近くに座るベテランがすぐに助ける環境や雰囲気がなく、オペレーターがセンター内を彷徨うことがしばしばある(応答率が低いセンターではよくある)

■後処理時間が長い

  • 新人オペレーターの割合が高い
  • 知識やスキル不足のオペレーターがいる
  • タイピングスキルの低いオペレーターがいる
  • 後処理ルールが複雑、または多すぎる
  • SVなど管理者が処理時間をモニタリングしていない(オペレーターがマイペースで顧客応対履歴を登録しているのに気づかない)
  • 後処理作業を短くするための施策を打っていない
  • 早い人と遅い人の個人差が激しい
  • システムが複雑で使いづらい
  • 電話に出たくないので、わざとゆっくりと作業しているオペレーターがいる

何が課題なのか、原因を特定することが最初の一歩です。
数値だけで分かるものもありますが、多くは現場観察やヒアリングが必要です。

(2)適正な処理時間を設定し管理すること。

処理時間の設定は‟希望”や、”他社事例”だけで決めてはいけません。
通話時間は、顧客満足度を維持できる適切な時間について、モデルケースのシミュレーションをもとに検討しましょう。

後処理時間は、使用するシステムのシミュレーションをもとに適切な処理時間の平均値を検討しましょう。

保留時間は「0秒」が理想ですが、これは現実的ではないので、1分前後で結構です。ただし保留のルールがあると長くなりやすく、ルールを含めた検討が必要です(顧客情報などの調べものがある場合は、必ず保留しなければならないなど、保留を強制するルールがある場合。)

(3)処理時間は常時モニタリングすること。

SVなど管理者は自分の仕事に忙しく、管理者が少ないコールセンターでは、リアルタイムモニタを常時チェックするのは難しいという話を聞きます。
事情は分かるものの、管理者がプレイングマネージャーになっていると、生産性や品質低下につながります。
またモニターばかり眺めていると、仕事をさぼっているように見えるかもしれませんが、これはこれで立派な管理業務です。

モニターに目を光らせていれば、応対時間の長くなったオペレーターに早期に気づき、事態が悪化する前に先手を打てます。
また待ち呼は急に増えるものです。
その際も、すぐオペレーターたちに応対のピッチを上げるよう、後処理をしているオペレーターに電話に出るよう、すぐに指示を出せます。

少なくとも応答率90%以上を目指すのであれば、モニター監視は不可欠です。
贅沢をいうなら、SVを複数配置して、当番制でひとりモニター監視の担当がほしいところです。

※BIZTELではリアルタイムモニタ画面の右に表示設定画面があり、アラートの色を設定できます。設定した時間を超えたオペレーターが指定の色で表示されるため、管理者が気づきやすくなっています。

(4)無駄な時間を減らすことにフォーカスすること。

(通話時間)

  • やみくもに時間を減らすのではなく、オペレーターの話し癖を矯正したり、相手が一度の説明で理解できるよう、簡潔で分かりやすい言い回しを工夫したりする
  • 時間の長短で見るのではなく、応対の流れが適切かモニタリングする
  • 通話時間の長い人にフォーカスしてチェックする
  • 通話時間が異常に短い人も、応対内容が雑でないかチェックする
  • 忙しい時と暇な時の対応方法について、事前にルールを決めておく

(保留時間)

  • 理想は「0秒」だが、現実的ではないので、許容範囲を決めておく(一般的には1分程度)
  • 保留してオペレーターが質問してくる内容を収集し、教育不足が原因ならオペレーター教育へフィードバックすること。
  • 保留回数もあわせて管理すること(スキルの低さが露呈するのは時間よりも、むしろ回数)
  • 保留時間が長くなりそうなときのルールを決めておくこと
    例)1分を過ぎたところで、いったん電話に出る。
    折り返しかけなおす判断基準を決めておく。
    新人には荷が重い内容の場合は、二次対応者に振る。

(後処理時間)

  • 理想は「0秒」だが現実的ではないので、許容範囲を決めておく
  • まず個人の問題なのか、しくみの問題なのか原因を特定し、その後改善方法を考える

■個人の問題の場合

・スキルに起因するのか、意識に起因するのか見極める

① スキルに起因
タイピングの入力スピードが遅い。応対履歴にだらだらと書き連ねるなど作文能力が低い。

② 意識に起因
繁閑に関わらずマイペースで仕事をする。電話に出たくないので意識的にゆっくりと作業する。離席が多い。

・後処理時間の長い人のグループにフォーカスし教育する

■仕組みの問題の場合

・業務プロセスに起因するのか、システムの使いづらさに起因するのか見極める

① 業務プロセスに起因
後処理ルールの多さや煩雑さ。システム登録と紙の起票の併存。

② システムに起因
使用アプリケーションが多い。システム登録の動線が複雑。

紙の処理は時間が長くなりやすいので、なるべくシステムに統合するか減らす
・業務に直接かかわりのない作業の負担はなるべく減らす(問合せ内容分析のために、数百項目の問合せ用件リストから選択登録させるなど。)

(5)個人のばらつきを極小化すること。

  • 通話時間や保留時間の個人差は少ないものの、後処理時間は早い人と遅い人の差は2倍以上も珍しくない。知識やスキルの差はあるものの、トレーニング不足が原因
  • 処理時間の長い人にフォーカスして、教育や指導していく

① 知識に起因
新人教育内容の見直し。デビュー後のフォロー教育の継続。

② トークスキルに起因
トークスクリプト作成。話し癖の矯正。簡潔な話し方のトレーニング。

③ タイピングスキルに起因
市販の早打ちソフトなどを使ったトレーニング。

④ 文章作成スキルに起因
簡潔な文章作成のトレーニング。

⑤意識に起因
個人面談など、意識が変わるまでオペレーターとの対話をしつこくやる。朝礼などの訓示で意識改革を促す。

⑥ 環境に起因
新人の席は面倒見の良いベテランやSVの近くにする。サボり気味の人は厳しいSVのチームや目立つ席へ異動。

AHTは短ければいいというものでもない。

そもそも「応答率が高い」、「稼働率が低い」コールセンターは通話時間の削減に取り組む意義は低いです。
受付体制に余裕があり、かつ人員削減の予定がないのであれば、一通話を丁寧に応対することで、顧客満足度や顧客との関係性を高めることを考えましょう。

またセールス系などでは、AHTよりも受注率が重要というケースもあり、保留時間や後処理時間は管理しているものの、通話時間はさほど重要視していなかったりします。

つながりやすいコールセンターを作る基本は必要人数を揃えることですが、それと併せてコールセンター内の平均AHTを適切に管理することも同じく基本です。

AHT管理で大事なことは全体を短くすることよりも、個人のばらつきを最小限にすること。
優秀なコールセンターほど個人差が少なく、それは教育体制の質と量、マネジメント力の高さを表しています。

おまけ

「コールセンターで働く人の職業病?」 作ちさ

 

*【ゼロから学ぶコールセンターのKPI(管理指標)】
「つながりやすさ」を考える。(応答率)
稼働率はコールセンター運営の健康状態を知るバロメーター
生産性管理の基本 AHTとは
離職をマネジメントする(離職率と離職コスト)
マネジメントすべき顧客の声は 顧客満足?顧客体験?
「単位あたり数値」は使い方次第で役に立つ
難攻不落の最重要KPI「解決率」とどう向き合うか
大事だけど、意外と重労働な応対品質管理。