2018.04.06
2022.02.18

ゼロから学ぶコールセンターのKPI「つながりやすさ」を考える

「応答率90%は10人のうち、たかだか1人に繋がらないだけじゃないか。」

もし、こんな質問をされたら、何と答えますか?

「いやいや、1,000人から電話があったら100人もつながらないんですよ。」と答えますか?それともさらに数を増やして、「10,000人からだと1,000人も~」とスケールを大きくして説得しますか。もしくは、「たかだか1人といえども、お客さまであることには変わらない。なんたって“お客さまは皆神様”だからね。」と居直りますか。

それでは、「しかも、うちだけならともかく、よそも皆同じじゃないか。どうして応答率90%を切ったくらいで大騒ぎするんだ?」と言われたら、どうしますか?

コールセンターにはたくさん管理指標が存在し、ほとんどの担当者が何らかの指標をもとに運営管理しています。とはいえ、その指標の意味は分かっても、“なぜ、その指標が必要なのか”、 “どう、その指標を使いこなしたらよいのか” となると、多くの管理者の方が悩んでいます。そこで、今回はKPIについて説明します。

KPIって何ですか?

コールセンター部門に初めて配置された人が最初に直面する課題が、この「KPI」です。

「KPI」という言葉からまずつまずきますよね。コールセンターはなぜか3文字単語が多くて混乱します。

PBX、CRM、AHT、なんでもかんでも3文字です。

これはコールセンターのシステムやマネジメント手法までが、欧米から取り入れたものばかりだからです。諦めましょう。

KPIとは正式にはKey Performance Indicator、「鍵となる実績の指標」、いわゆる管理指標の意味です。他の業界にも管理指標はあるものの、コールセンターに関する管理指標は主だったものだけでも50以上、各コールセンター独自に作った指標まで入れると、100以上あるのではないでしょうか。

これらの指標の特徴は「結果とプロセスを管理するKPI」、「対顧客と対内部を管理するKPI」、「生産性とクオリティと収益を管理するKPI」と様々な側面を持っています。恐らくこれがKPI管理の理解を難しくしているかもしれません。そこでKPIについて、これから一つひとつ一緒に学んでいきましょう。

つながりやすさについて

つながりやすさとは「応答率」で代表されるように、お客さまからの電話にどれだけ対応できたのかを判断するKPIのことで、ほとんどのコールセンターがこのKPIを測定し管理しています。つながりやすさはお客さまの満足度に直結するKPIになる最重要KPIのひとつです。

つながりやすさのKPIとして代表的なものは、応答率・ASA・サービスレベルの3つがあります。

つながりやすさを管理するのであれば、応答率とサービスレベルの2つは測定するのが理想ですが、コールセンターの多くでは応答率だけ測定しているようです。というのもサービスレベルは、取り組むにはハードルが高いためでもあります。その違いは応答率のからくりに原因があります。

応答率のからくり

下の表をご覧ください。とあるコールセンターの1カ月の応答率を30分単位で測定した結果です。

月間コール数は約14,000件(700件/日)で、月間の平均応答率は90.1%(表の右下、赤丸囲み)でした。日別でも19日中、11日間は90%以上の応答率で、90%以下の日もほとんどが80%台後半で応答できており、これだけならまずまず頑張っているという評価になります。

ところが時間帯別に見ていくとどうでしょうか?11:30から13:30までの時間帯の62%で応答率90%を下回っています。しかも一番低いところで46.8%、他にも60%台も散見され、普通ならつながりにくいとクレームが発生するレベルです。これを見るなら”不合格”であり、緊急で対策が必要という評価になります。もちろんコール数や受付人数によって差はあるものの、平均応答率の実績が90%なら、おそらくピークタイムはその数値を下回っているはずです。

なぜこのように評価が全く異なる結果になったのでしょうか。それは応答率が1日全体の応答数に対し着信数で割った数値になるため、他の時間帯で電話をしっかりと取り切れていれば、それが貯金となって全体の数値を押し上げるからです。したがって月間の平均応答率90%を達成しているコールセンターに、電話がつながりにくいというクレームが入っても、「なんのことやら」となるわけです。

優秀なコールセンターでは、1日だけでなく30分や1時間単位でも測定し、目標達成に取り組んでいますが、まだ少数派です。しかし本来の応答率管理は、サイクルタイムごとに測定し管理すべきであり、サービスレベルなどほかのKPIに手を出す前に、こちらを優先すべきであると考えます。全ての時間帯を母数にして、何%の時間帯で応答率の目標を達成できたかマネジメントしてみましょう。目標を継続して達成できるなら、そのうえでさらに高みを目指すために、サービスレベルに着手するほうがいいのではないでしょうか。

応答率は率ごとにどう違うのか

日本のコールセンターの多くが応答率90%を目標にしています。20年前までは95%に設定する企業が多かったのですが、コストやパフォーマンスなどを鑑みた結果、今は90%に落ち着いています。しかし絶対に電話に出る必要がある業務、例えば緊急性を伴う窓口などでは97%以上の目標値を立てて管理しています。以下は応答率ごとにどういう状況になっているのか、事例でまとめてみました。

サービスレベルの管理が難しいわけ

サービスレベルは通常の応答率とは考え方が異なり、期限に対する納期達成度合いを見ます。通常の応答率は時間の制限なく応答できた件数を測定しますが、サービスレベルは規定時間内に応答できた件数で応答率を測定します。例えば(80/20)とした場合は、20秒以内に応答できた件数の応答率の目標を80%に設定することになり、通常の応答率では20秒以降に応答できた件数もカウントします。

したがって応答率が低いコールセンターでは、電話がなかなかつながらず、お客さまは相当待たされるのでサービスレベルの数値が異常に低くなります。この場合、サービスレベルを測定することを止めはしませんが、管理する意義はぼやけます。まずは通常の応答率で一定以上の成果を出すことが先決です。またサービスレベルの目標値の設定について、(80/40)「40秒以内に80%の応答」もしくは(80/30)「30秒以内に80%の応答」に設定するところが多いようです。

コールセンターに関する専門書やホームページは、盛んにサービスレベルを管理するよう求めています。しかし「簡単に言うが、やる方は大変なんだぞ。」と一言添えたいと思います。焦らず、じっくりと応答率から取り組みましょう。

応答率は高くなければならないのか

はい、そうです。

コールセンターに電話をかけてくるお客さまは、何らかの問題なり理由があるからこそかけてくるのです。それがなかなかつながらないとしたら、お客さまは不快に思い、腹が立ち、最後にはその会社のサービスをやめてしまうかもしれません。コールセンターの存在が顧客満足度を下げ、顧客離反を招くのであれば、無いほうがマシということになります。コールセンターを作ると決めた時点で、この点のコストは織りこむべきで、決して渋々作ってはなりません。

とはいえ、会社の予算にも限りがあります。ある程度の割り切りが必要ですが、諦めてもなりません。“やむを得ない”と努力を放棄すると、数値はどんどん悪化します。いったん目標値を設定したら、常に周囲に意識付けさせ、目標死守に全力で取り組まなければなりません。

さらに難しいのは、特定の月だけ“超繁忙期”がある業務です。この月のためだけに年間の人員体制を組むのは、コストを考えても現実的ではありません。諦めましょう。

諦めの悪い方は、臨時採用で対応できる業務ならそれでも結構ですし、社内から応援を出してもらうことが可能なら、教育負担が減るので一番効率的ではないでしょうか。他にもコールセンター内の繁忙でない部署の業務をその月だけ縮小するか、回線を絞って人員を回すという手もあります。

また目標値を下回っている場合は、対応人員を増やすことが最短の解決方法ですが、仕組みで解決することも同時に取り組むことが望まれます。

  • コールセンターの受付時間は、日中連絡しにくい人が余裕をもってかけられる時間も営業しているか。
  • 平日電話連絡するのが難しいお客さまでも、コンタクトできる方法があるか。
  • IVRに折り返し連絡受付の機能が装備されているか。
  • IVRまたはオペレーターがお客さまに、電話がつながりやすい時間や曜日などをアナウンスして誘導しているか。
  • オペレーターの処理スピードは適切か。
  • 後処理時間が長くなる業務プロセスになっていないか。
  • FAQが使いづらくて、役立たずになっていないか。
  • 問合せや問題が多い用件について、具体的な対策を取るなど電話を減らす施策を打っているか。

応答率の数字に踊らされるのではなく、なぜ数値が悪いのか原因を特定し、その原因を解決することこそがつながりやすさを管理する本質です。

おまけ

 

*【ゼロから学ぶコールセンターのKPI(管理指標)】
「つながりやすさ」を考える。(応答率)
稼働率はコールセンター運営の健康状態を知るバロメーター
生産性管理の基本 AHTとは
離職をマネジメントする(離職率と離職コスト)
マネジメントすべき顧客の声は 顧客満足?顧客体験?
「単位あたり数値」は使い方次第で役に立つ
難攻不落の最重要KPI「解決率」とどう向き合うか
大事だけど、意外と重労働な応対品質管理。